ちょっと小話

アルバの犬とダイヤモンド


すっかり収穫の終わった葡萄畑では、役目を終えた葉が赤に黄色に染まり、最後の輝きをはなって秋の深まりを知らせています。 まるでパッチワークキルトのごとく彩られたランゲ(*)の小高い丘の上に、ロッディRoddiの町があります。

塔を備えた小さなお城のそばにある大学。
学生が今日も元気に学んでいることでしょう。
でも、普通の大学とは少し違うようです。
“bau bau!”。
学んでいる学生の声は、日本では「ワンワン!」と聞こえるそれ。
そう、ここの学生は犬なのです。

大学を無事に卒業した彼らの就業時間は主に秋の夜長、主人と一緒に暗い森へ分け入ります。
その香りを嗅ぎつけると、わき目もふらずに前脚で土を掘り始めますが、香りの出どころがもうすぐそこまできたら、彼らの出番はそこまで。
今度は交代した主人が傷つけないように慎重な手つきでそれを取り出します。
ゆり根のようでもあり、じゃがいものようでもある、でこぼこした物体。
黒い土をブラシで落とすと、表面は白っぽい黄土色。半分に割ってみたなら、赤みがかったベージュ色に白い筋の入った大理石模様が顔を出します。
そして何より、切り口から漂う少しにんにくを感じさせるような、魅惑的な強い香り!
―白トリュフです。

ロッディは麻薬探知犬ならぬ、トリュフ探知犬を育成する世界で唯一の大学がある町として知られているのです。

トリュフはそもそも地中にできるヨーロッパのきのこですが、黒いものと白いものを合わせると、その種類は30以上あると言われます。
黒トリュフならばフランスはぺリゴールのものが有名ですが、イタリアでも中部の地域をはじめとして各地で愛好されており、15世紀には食通の思想家、プラティナがこう書き残しています。
《ノルチャNorcia(**)の雌豚の嗅覚といったらすばらしい。トリュフのできる場所がわかるのだから。その上、農民が耳をなでたなら、損ねることなくそれを手放してくれる。》
黒トリュフ狩りには今でも豚と犬の両方が活躍していて、ところによってはどうやって手なずけるのかイノシシまで働かせているようですが、白トリュフ狩りはもっぱら、犬の専売特許だそうです。

白トリュフはたいてい、火を通すことなく使われます。
専用のトリュフおろしを使い、地域の名物パスタのタヤリンや、薄く切った生肉の料理のカルネ・クルーダ、リゾット、チーズフォンドュなどの仕上げにごく薄く削りかけます。
はらはらと舞い降りた白トリュフの薄片からは料理の熱とともに強い香りがたちこめるものですから、生唾を飲み込まずには口にすら運べません。

また、ロッディのある辺りの一番大きな町はアルバAlbaといいますが、この辺りでよく取れる白トリュフは誇らしげに「アルバのトリュフtartufo d’Alba」とも呼ばれています。
アルバでは毎年、白トリュフ祭りともいうべき国際見本市が開かれます。
実際に白トリュフを手にとって匂いをかぎ、買って帰ることができるほか、競売も行われるのですが、大きければ大きいほどグラムあたりの値段が釣り上がるさまは、さながらダイヤのようです。

霧が立ち込める夜明け近く、まだ暗いアルバのオークの森から、一人と一匹が今日もまた家路についていることでしょう。
魅惑的な香りを放つそれたったひとつに、よもや一匹が一ヶ月ばかり食いつなげるほどの価値があろうとは、探し当てた無邪気な彼、あるいは彼女には残念ながら知る由もありません。

注 *ランゲLanghe イタリア北部ピエモンテ州の丘陵地帯。バローロBaroloやバルバレスコBarbarescoなど、イタリアを代表するワインの産地としても知られる。
注 **ノルチャNorcia イタリア中部、ウンブリア州にある町。黒トリュフのほか、豚肉の加工品で現在も有名。